施設面会の日
毎週土日のどちらかを夫婦での面会に当てている。この日は天気もよくお花見には最高の日曜日であった。
この施設はコロナは終わったと考えているので、特に面会の予約はいらない。
施設の自動ドアを開けると、スリッパに履き替える。赤外線の体温計で計測。この体温計は調子が悪く、ほぼ無視している。呼び鈴を押す。中の自動ドアが開く。入居者が勝手に外に出ないように管理は厳重である。
受付で入所時間を書き込む。書いている間に、施設長のKさんとケアマネのYさんが出てきて、挨拶してくださる。立ち話でテレビ搬入の段取り確認と母の保険証(施設に預かってもらっている)の一旦返却をお願いする。「今日はいいお天気だから出かけるんですよね?」と前回、父を花見に連れ出す相談をしたことを覚えていてくださっている。
親切でやさしいKさん、不器用だが真摯に対応してくださるYさん、どちらも本当に助かっている。あまり優しいので、クーリングオフ期間が終わったら、それも終わる?と心配。
エレベーターで5階へ。階段は従業員しか使えないのでエレベーターを使うしかないのだが、これがなかなか来ない。フロアに出ると、2人の入居者さんが喋っていて、ご挨拶を交わす。この施設は割とこうして共有スペースでのおしゃべりが見受けられるのだが、私の両親は参加しない。
ノックして、返答を待つが、声が小さいので聞こえない。鍵はかからないので、勝手にドアを開ける。
大抵は母がつかれた形相で迎え、父は寝ている。
今日は、事前に連絡していたので、父も母も外出の用意をして待っていてくれた。
「父のことだから期限が悪くて、「外出はお前らでいってこい」って言い出すんじゃないか」と妻と話していたが、出かける気満々で嬉しかった。
父に修理したメガネを手渡す。手渡すが、父が自分で収納できるわけはないので、私が収納する。
リモコンの効かなくなったテレビをメカスイッチで消す。
母は帽子の選択でごちゃごちゃやっていて、なかなか準備ができない。
父は外履きに履き替えたいという。介護士さんに手伝っていただき、外履きのサンダルを履かせると、足がむくんで入らない。外履き自体も約1年ぶりだろうか。車椅子にステップがついているので、スリップオンになっているのをちゃんと履き直して、それで出発。
Yさんが見送ってくださる。車椅子の押し方で気をつけることを聞くと、下り坂では押す人が下になるように下ると、車椅子の人がずり落ちなくて済む、とのことだった。
父は去年の5月10日以来、久しぶりに太陽の下に出た。公園は遠いので、施設のすぐ裏手の川の脇にある一本の桜の木を目指す。満開だったが、だいぶ刈られているので物足りなかった。橋の脇にしだれ桜があり、そこで眺める。母と妻は奥の方に行ってツツジを眺めている。こっちへ来いと合図。いざ公園に入ろうとすると、細かい段差でなかなか入れないことがわかる。入ってからも、路面が荒れていて、大回りしてツツジの場所へ。車椅子ってのは、意外なところに気を使うものだ。
ツツジを眺めていると、父が「腰が痛くなってきた」と言い出した。短い時間だったが戻る。それにしてもいい天気、温かい日だった。
母は物足りないようで、妻とスーパーへ買い出しに行くと言い出し、その後別行動。
施設に戻る。介護士さんを呼び、父をベッドへ寝かせたが、父は車椅子から自力で立ち上がった。なんとかよろよろベッドに横になる。施設に入った当初より、状態が良いようだ。よかった。
父と野球を見ながら、会話する。プロ野球の世界では、日本のスター選手は今はアメリカにわたってしまうらしい。
父はカップラーメンが食べたくてしょうがないらしい。しかし、自分が麺を食べられなくなってきていることもわかっているし、塩分がおおくてNGなのも理解していて「言ってるだけ。だめなのはわかってる」とのことと。ちなみに「きつねとたぬきのやつ」が食べたいとのこと。
そして、畑の話などをする。実家でも芋を育てていたので、その話など。そう言えば、この施設には屋上農園がある。あとで聞いてみよう。
母と妻が施設の部屋に戻る。母はごきげんである。バームクーヘンなどを買ってきたようだ。
帰りがけ、ケアマネYさんから保険証をいただく。施設の花見会についてお聞きすると、今週にも実施予定のようだ。施設の屋上にある農園について話を聞くと、例年は近隣農家さんのボランティアを迎えていたらしいが、今年は難しいようだ。残念。もっとも今の父に芋掘りは無理そうだ。
いい面会であった。施設に入った当初はいろいろあったが、安定した今はいい関係で面会できている。
最後に「ありがとうな」と言われると、やはり嬉しい。自宅介護なら毎日が喧嘩と戦争だろう。施設だと面会でありがとうと言われる関係でいられる。いつまでもこの状態が続いてくれることを祈る。